幻を見る人 **** (田村隆一)

ひとつの声がおわった 夜明けの
鳥龍のなかでそれをきいたとき
その声がなにを求めているものか
わたしには分らなかった

ひとつのイメジが消えた タ闇の
救命ボートのなかでそれをみたとき
その影がなにから生れたものか
わたしには分らなかった

鳥龍から飛びさって その声が
われらの空をつくるとき
救命ボートをうち砕いて その影が
われらの地平線をつくるとき

わたしの渇きは正午のなかにある