「皿 」(西脇順三郎)

黄色い董が咲く頃の昔、
海豚は天にも海にも頭をもたげ、
尖つた船に花が飾られ
ディオニソスは夢みつゝ航海する
模様のある皿の中で顔を洗つて
宝石商人と一緒に地中海を渡つた
その少年の名は忘れられた。
ウララカな忘却の朝。
          『ambarvalia』

 

黄色い董の咲く頃の
今は昔
海豚ドルフインは天にも海にも頭をもたげ
船のとがりに花を飾り
ディオニソスの老神が
何事か夢をみながら航海する
あの模様のついた皿の中で
顔を洗ふうららかな朝の忘らるる
そんな日に
宝石商人と一緒に地中海を渡る
少年も犬も忘られ
カラブリアの山々も忘らるる
             『あむばるわりあ』