「春」 (北川冬彦)

蟹が、ぶっつぶっつ泡をふいてゐる、
泡がまるで泡みたいに。
その眼も、
面も、
鋏まで、
泡だらけぢやないか。
一体、何が、そんなに気に入らないんだ!
どうしたと云ふんだ。
一匹かと思つたら、
やあ、
あそこにも、こゝにも、
ひき潮どきの凸凹の泥地一面に、
二銭銅貨大のがゐる、白銅大のがゐる、
見れば見るほど、ゐる! ゐる! ゐる!
やあ、やあ。一匹のこらず、
どいつもこいつも、泡をふいてゐる!
どうしたつてんだ!
何だ、何だ、何が始まらうてんだ!